動脈硬化の改善・予防 3つのキホン「食事」「運動」「ストレス対策」のキーポイントを血管の名医が解説

心臓から全身に新鮮な血液を運んでくれる動脈。また、免疫細胞やホルモンを乗せて全身を巡り、体中をパトロールして外敵を攻撃し、ダメージを受けた部分を修復する役割も担っています。
このように、私たちの健康と命を守ってくれる血管ですが、老化とともに病気や突然死の原因となる「動脈硬化」を引き起こす可能性があるのです。
そこで、50代以降ならすぐに知っておきたい動脈硬化の原因や、改善・予防方法を、血管の名医である循環器・高血圧専門医の島田和幸先生(新小山市民病院 理事長・病院長)に教えてもらいました。専門家がすすめる食事・運動・ストレス対策をうまく取り入れて、充実した毎日を送りましょう!

動脈硬化の原因は、老化と生活習慣。危険信号を見逃さないように

人間の血管のほとんどは、内側から内膜、中膜、外膜の3層構造でできています。形状はゴムホースとそっくり。古くなったゴムはしなやかさを失って伸びにくくゴワゴワと硬くなりますが、血管も老化すると血管壁が硬くなったり、血液の通り道が狭くなったりします。この血管の老化現象が動脈硬化です。血管の老化は、塩分の摂りすぎや肥満、喫煙、過度な飲酒、運動不足、ストレスなどの生活習慣によって引き起こされます。

そして、この血管の老化現象=動脈硬化はゆっくりと進行していくので、自覚症状が現れない恐ろしい病気です。動脈硬化が進行すると徐々に下のような兆候が表れはじめます。この兆候を見逃さないことが大切です。

[見逃してはならない初期の兆候]
□少し急いで歩くと胸が痛む

□朝方や寒い日に胸が痛む

□息切れしやすい

□少し歩くと足に痛みやしびれがある

□動悸が不規則

□声がかれる

□手足がしびれたが治った

□呂律が一時おかしくなった

動脈硬化によって血管がしなやかさを失うと、血管は切れたり、裂けたりしやすくなります。また、血管内部が狭くなると血管が詰まりやすくなってしまいます。脳出血や大動脈解離、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症など、さまざまな重篤な病気につながってしまう可能性があります。
そのため、動脈硬化の改善・予防のためには、「食事」「運動」「ストレス対策」といった生活習慣の改善が大前提となります。島田先生が提唱する具体的な改善方法をご紹介します。

動脈硬化の予防・改善法①:食事編|血管を元気にする“食べ方”

血管の健康を考える上で、食生活の最重要ポイントとなるのは、塩分と脂質の過剰摂取を控えることです。また、糖質の摂りすぎも血管を傷つけてしまうため注意が必要です。そのため、「何を食べるか」だけでなく、「どのように食べるか」が重要です。食事は<ⅰ><ⅱ><ⅲ>の順を心がけましょう。


<ⅰ>食事の最初に、野菜中心のメニューをたっぷりと食べる
生野菜のサラダ、おひたし、海藻の酢のもの、温野菜、野菜炒め、きのこ炒め、野菜の具だくさんスープなどがおすすめです。

野菜に含まれる食物繊維は、腸の中で糖質や脂質の吸収をガードしてくれるだけでなく、便秘の予防にもつながります。満腹感を得られやすく食べ過ぎを防いでくれるので、ダイエットにもつながります。葉野菜・きのこ・海藻がおすすめです。塩分をデトックスする効果のあるカリウム、血圧を落ち着かせてくれる効果のあるマグネシウム、血圧を安定させてくれる効果のあるカルシウムが豊富に含まれています。

<ⅱ>「たんぱく質」を食べる
脂身の少ない鶏むね肉・牛ヒレ肉・豚ヒレ肉、EPA(エイコサペンタエン酸) やDHA(ドコサヘキサエン酸)が豊富に含まれる、いわし・さば・ぶり・あじ・さんま、豆腐や納豆といった大豆製品を食べます。<ⅰ>の前菜と一緒に食べてもOKです。

たんぱく質は新しい細胞をつくるための原料です。特に魚に含まれるEPAは高血圧を抑え、血管をしなやかにして動脈硬化を予防改善する効果があり、DHAには中性脂肪とコレステロールの増加を抑える効果や、認知症を予防する効果もあります。

<ⅲ>ごはんは、最後に少しだけ食べる
ごはん、めん類、パスタ、パンなどの炭水化物は、いつもより量を減らして最後に食べます。

糖質の摂りすぎは肥満だけでなく、すい臓を疲弊させることで糖尿病の原因にもなります。少量でもゆっくりよく噛んで食べれば、満腹感を得ることができます。

動脈硬化の予防・改善法②:運動編|“歩いて”つくる強い血管

強い血管をつくるためには、運動の習慣も必要不可欠です。運動不足は肥満をまねいて、動脈硬化を進行させる原因となるからです。
強い血管のためには、息が切れず緩やかに継続できる有酸素運動が有効。有酸素運動で血流が良くなれば、血管の内側にある内皮細胞の働きが活性化され、内皮細胞が活性化すれば血管内の一酸化窒素が分泌されて血管をしなやかにします。一酸化窒素は、血管を詰まらせる原因となる“こぶ”を小さくする働きもあります。
まずは、普段の生活の中で「歩きかた」を見直して見ましょう。

強い血管をつくる歩きかた

・肩の力を抜いてリラックス

・あごを引いて目線は真正面に

・背筋を伸ばす

・ひじは直角に曲げて手のひらは軽く開く

・腕は自然に振る

・前足を振りだしてひざを伸ばす

・親指で地面を蹴って次の一歩へ

1日30分〜1時間程度行うのがベストですが、10分ずつ細切れに歩いてもよいでしょう。軽いサイクリングや、軽い水泳もおすすめです。

日頃のストレッチで脚の筋肉をしなやかにしておくことも大切です。また、深呼吸や背伸びは脳をリラックスさせる効果があり、血圧の安定に役立ちます。気が向いた時に行うクセをつけておきましょう。

動脈硬化の予防・改善法③:ストレス対策|“心を整えて”血管の健康を維持

ストレスにさらされている状態が続くと、体はさまざまなダメージを受けてしまいます。まずは、自分がストレスを受けやすく、ためこみやすいタイプなのかどうか、下記をチェックしてみてください。

[ストレス度チェック]
□どちらかというと完璧主義だ

□悩みを人に打ち明けられない

□独りで問題を抱え込みがち

□喜怒哀楽を見せられない

□休日を犠牲にしてでも働く

□日々、刺激がないと楽しめない

□常にピリピリしてしまいがち

□責任感が強い


ひとつでも当てはまる方は、動脈硬化のリスクが高いと言えるでしょう。

島田先生によると「ストレスは血管の敵!」なのです。「日中受けたダメージを解消できず、夜間でも交感神経の優位が続くと、血管が収縮して血圧が上昇します。また血流がスムーズさを失うことで血中に血栓ができやすくなり、さらに血管のバリア機能も低下して、動脈硬化のリスクが高まります」と言います。血管の健康を維持するためには、受けたダメージをいかに癒すかが大切です。

体を癒すために最も大切なのは「睡眠」です。日中に受けたダメージを修復するのは、主に睡眠中に分泌される成長ホルモンです。よい睡眠をしっかりととることは、成長ホルモンの働きを助けて血管の健康を守ります。よい睡眠とは、ノンレム睡眠と呼ばれる深い眠り。成長ホルモンは、寝始めの3時間に最も多く分泌されます。寝ている間の大切な3時間を十分に生かすためには、次のような心がけが大切です。


[起床後]

・起床直後に15秒ほど朝日を浴びて、体内時計をリセット

[帰宅後]
・入浴時、脱衣所が寒い場合(冬場)は暖めておく
・40℃程度のぬるめのお湯を浴槽に張って15分程度入浴し、リラックスする
・手足を前方へ伸ばしてグーパー体操をし、末梢の血管を促進する

[就寝前]
・ブルーライトを放つスマートフォンやパソコンは、就寝1時間前から使わない
・寝室は真っ暗にせず、薄暗くする
・室温は16〜24℃、湿度は40〜50%にキープする
・夏場は扇風機の首振り機能を活用し、エアコンの場合は直接風が当たらないようにする
・寝床は寝返りを打ちやすいスペースを確保する


また、睡眠以外にも、基本的には“おおらかさ”を大切にすることが重要だそうで、「心の余裕がない人は血管病になりやすい」と島田先生。精神的なペースを外圧によって乱されないマインドを持つために、「楽しいことを考えて1日を終える」「笑う」「深呼吸をする」「アロマを炊く」「音楽を聴く」など、その日のストレスはその日のうちにしっかりとケアしましょう。

動脈硬化を改善・予防するために大事なのは、1にも2にも生活習慣の改善。全てを完璧に行うのは大変ですが、体や心の負担にならないよう留意しながら、できることから少しずつ始めてみてください。

監修 - 島田 和幸(しまだ かずゆき)

新小山市民病院理事長・病院長。東京大学医学部卒。医学博士。自治医科大学名誉教授。日本高血圧学会理事長。第8回日本心臓財団研究奨励賞、日本高血圧学会栄誉賞などの賞歴がある。血管病の予防・治療を専門とする循環器内科において、臨床と教育に情熱を傾けてきた権威であり、とくに高齢者の疾患に精通。高血圧治療のガイドライン作成委員も務める。


   
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