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農協牛乳の開発秘話

1972 (昭和47) 年6月に発売された農協牛乳は、安全・安心な牛乳を求める消費者から歓迎されて爆発的な売れ行きを示し、「成分無調整・直販・紙バック」の手法で牛乳の販売形態を大きく変え、需要拡大にも貢献していくことができました。「成分無調整」牛乳に限定すると、国内自給率は100%であり、我が国の貴重な食糧資源となっています。

しかし、その生産を担っている酪農家の方々は後継者不足等から年々減少傾向にあります。酪農家の方々が将来にわたって安心して経営が継続できる生産基盤を守り、酪農家と消費者が共有できる新たな価値を提起し続けることは、乳業メーカーの重要な使命と考えます。

2014(平成26)年に、「ポッカレモン100」を製造・販売するポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社が、熱に弱いレモンの色・香りの劣化や栄養分の減少を抑えながら安全に殺菌処理する「交流高電界殺菌技術」を開発・実用化します。「交流高電界殺菌技術」は、食品中に電流が流れると電気的な殺菌作用が生じる効果を利用して、食品中に存在する微生物を迅速かつ効率的に熱処理する殺菌技術です。 

JA全農と協同乳業は、この「交流高電界殺菌技術」を活用して、農協牛乳の新しいおいしさを引き出せるのではないかと考えました。ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社と共同開発契約を結び、まったく性質の異なる牛乳への応用実験を開始します。

協同乳業の研究所に交流高電界殺菌のテスト機が運び込まれた日から、考えられる限りの試験を一つ一つ、毎日粘りづよく実施しました。電流値や電圧値など、 今までにない殺菌ファクターの検証、電極部分の形状や焦げ付きの確認、 圧力や流速、温度変化など、ひたすら回数を重ね、手探りでの検証を進めていきました。実施した検証の微生物試験結果が出るのは2~3日後になるため、その間は別の試験を実施し、後日判明する試験結果に一喜一憂する充実した日々が続きます。

「交流高電界殺菌技術」を牛乳の殺菌処理に応用できるとなると、量産に対応できる実機を機械メーカーに正式発注することになります。その事前設計のために、テスト機から約50倍の能力のある実機にスケールアップするためのデータ検証が必要になります。しかし、その段階になって研究所の条件では長時間運転ができないことが明らかになりました。そこから日々様々な条件でトライ&エラーを繰り返し、工場で安定稼働できる条件を見つけるまで、実に2か月を要しました。正式な設計仕様が決まったのは、生産開始の1か月前のことでした。

特に、牛乳加工での「交流高電界殺菌」では、殺菌工程の電極プレートが大きな役割を果たします。そのため、本番近くまで改良を重ねることとなりました。さらに、実機納入時には量産に必要なプレートの枚数を確保できないことが判明します。さて、当面は手持ちの枚数でどうやって品質を保つか。
「できることは全部やろう!」 工場にいる全員の熱い意欲で、一定時間を経過したプレートを交換し、 外したプレートを直ちに洗浄して活用することになりました。生産開始日までに最適な洗浄条件を確立していたことが救いとなりました 。

こうして協同乳業の研究開発者達は、「交流高電界殺菌技術」を応用して牛乳本来のすっきりした味わいを引き出す業界初の「おいしさそのまま新殺菌製法」を完成することができました。

2016(平成28)年にはJA全農から関東・甲信越・東海・関西地域での販売許諾を受け、協同乳業自らが製造元となって牛乳のおいしさの3大要素 (コク、キレ、後味) において、まったく新しいおいしさを実現した農協牛乳をお届けしています。

後日、生乳の産地を訪れたある調達担当者は、一人の酪農家から忘れることのできない言葉を聞きました。

「農協牛乳の供給元であることは、酪農家冥利につきます」

酪農家には、自分たちが搾った生乳に対する自信とこだわり、そして愛情をもって乳牛を育てる酪農家としての強い誇りがあります。

そして、そんなひたむきな想いを込めた素材を受け取った乳業会社には、自然の恵みをそのままに活かし、生乳本来のおいしさを大切に伝える牛乳にして食卓に届け、“本当においしい牛乳を届けたい”酪農家の想いと“安全・安心でおいしい牛乳を飲みたい”生活者の気持ちをひとつにつなげていく使命があります。

"自然の輝きに、おいしさそえて。"

素材・原料、製法・技術、安全・安心の3つの価値にこだわる協同乳業の熱気とともに、農協牛乳は、にっぽんの食卓へ「酪農家の想い」と「自然のおいしさ」をお届けしてまいります。