愛知県三河 伊藤牧場
農協牛乳の生乳を生産
続けることで、
安心を伝えていく

農協牛乳のふるさと・愛知県三河で、温暖な気候と豊かな自然を活かし、1頭1頭に寄り添うような細やかな酪農を親子三代の家族経営で営むJA愛知東 酪農部会 部会長の伊藤靖彦さんの牧場を訪れました。
愛知県三河 伊藤牧場
農協牛乳の生乳を生産
続けることで、
安心を伝えていく
農協牛乳のふるさと・愛知県三河で、温暖な気候と豊かな自然を活かし、1頭1頭に寄り添うような細やかな酪農を親子三代の家族経営で営むJA愛知東 酪農部会 部会長の伊藤靖彦さんの牧場を訪れました。
愛知県三河は、「穂の国」と称えられる。豊川の清流と周囲の山々は豊かな森林と水を育み、温暖な気候と肥沃な土壌は生きるものたちに生命の輝きを注ぎ込む。
大自然の恵みがあふれる大地に、伊藤牧場はある。
親父が結婚して酪農を始めたのは、昭和32年。
私が生まれた時から20頭そこそこの牛がいて、酪農を継いだのもなりゆきだね。今は経産牛40頭くらいで、私たち夫婦と息子と祖母の家族経営で頑張っています。そうなると、初代から三代目の息子までで65年近く牛を飼っていることになります。
伊藤牧場二代目の伊藤靖彦さんが目を細めると、傍らにいる三代目の達哉さんが「(酪農家になった理由は)大体、同じ。小さい頃からここにおったもんで。自然とね。」と屈託なく笑う。後継者不足で悩む酪農家が多い中、幸せそうな伊藤牧場の1日を共にした。
伊藤牧場の牛舎は、つなぎ飼いである。牛舎内には、自由に動き回れるスペースもあり、お産前の乾乳牛を運動させている。
愛知県には放し飼いができるフリーバーンやフリーストールの牛舎に規模拡大していく人が多いんだけど、うちの家族を考えた場合、家族労働でできる範囲に留めました。このぐらいの頭数なら、どの牛がどれって、自分の頭にちゃんと入るからね。
搾乳中の牛の背中を撫でながら、達哉さんが「こいつは何キロぐらい乳が出るとか、どのくらいの速さで食べるかっていうのは、大体わかる。」と相槌を打つ。
いつも牛が居心地よく過ごせるようにと考えて、夏場の暑熱対策に換気扇をつけたりとか、牛床にマットを敷いたりとか、できるだけのことをしています。
「穂の国」三河にある草原では、栄養豊富な牧草や清涼な水をたっぷりと牛に与えることができる。牛舎から出る堆肥は、ハウスで乾燥させ、JA愛知東の堆肥センターへと運ぶ。ここでは、循環サイクルが成り立っている。
人間でもストレスがかかると全てがマイナスに働くように、牛もストレスがあったら乳も出ないし、成分も良くならないので、そうならないように気をつけています。
牛の身になって考えて、ストレスのない快適な環境を与える"カウ・コンフォート"が第一と考えて、やってきました。
大切なことは、牛は生き物だから、毎日同じことを同じ時間に繰り返すってことですね。私らがしっかりと見なきゃならんのは、エサをちゃんと食べているか、おかしな糞をしていないかであって、牛はそうやって訴えることしかできないので、しっかり汲み取ってあげるようにしています。
愛知県三河地域は、農協牛乳の生乳の主産地になっている。三河で搾られた生乳からできた農協牛乳が、東海・関西地域の消費者に届けられる。その決定を知り、靖彦さんは誇らしい気持ち以上に身の引き締まる想いがしたと語る。
私たちの部会の生乳が採り上げられたということは本当に嬉しい事だし、光栄なことだと思います。それと同時に、三河の名前が出るからには、今まで以上にきちんとしたものを出荷せないかんな、安全安心なものを提供せないかんなと、決意を新たにしました。
酪農家って、搾るだけで、あとは販売はやらんでいいもんでね。割り切ろうとすれば割りきれるんだけど、今は消費者とのつながりを大切にしないと、成り立ちません。
やっぱり、消費者の方が美味しいものを飲んで、この値段だったらいいよって納得してくれるようにさ、酪農家がその期待にきちんと応えられるような美味しい生乳を出すっていうことを、心掛けなければと思います。
三代目の達哉さんは、伊藤牧場を正式に継ぐ前は、三河地域の酪農家たちの仕事を手伝う酪農ヘルパーとして働いていた。堆肥を受け取る地域の耕種農家も含めて離農世帯が相次ぐ中で、達哉さんの酪農に取り組む意欲は高い。
"安全"っていうのは、殺菌後の細菌数とかの数値で担保されるんですけど、"安心"ってどこから来るのかっていうのはやっぱり人の感情の問題ですから、消費者への伝え方が大事になってくるのかなと思います。
その言葉を聞いて、
まぁ、いろんな農家でいろんなやり方を見てきているおまえのほうがわかっているとは思うんだけど、基本は、牛が居心地よく過ごせるようにして、個体管理もしっかりしてやっていけば、良い乳が搾れるんだ。それをしっかり守って、自分なりに経営者としてちゃんとやっていってもらえれば、俺はそれで満足だから。
と、二代目の靖彦さんが穏やかに微笑んだ。