長野県佐久  輿石牧場 
農協ヨーグルトの生乳を生産

牛と共に、
無理なくあるがままに

農協ヨーグルトで使われる生乳の産地・長野県。
立科山の清らかな水と豊かな自然を活かして、1 頭1頭に細やかに目の届く無理のない酪農を営んでいる輿石牧場の二代目・敦夫さんのお話を伺いました。

長野県佐久市は、標高850m・北斜面の台地で、輿石敦夫さんは牧草を育てる。耕地を拡げ、牧草を刈り取り、乾かし集めてロール状にラップする。その作業を、輿石敦夫さん一人で行う。

現在、経産牛23頭・育成牛を含めて全頭30頭の小規模酪農。開拓地の東立科に叔父が入植し、その就農を手伝う父が昭和30年頃に酪農を始めて、敦夫さんが継いだ。

幼少の頃から牛と戯れ、家業を継ぐことを前提に育ち、修行先の野辺山開拓農協では人工授精師として働き、酪農立国のニュージーランドやオーストラリアへ視察にも訪れた。 「酪農は、無理せず、ほどほどにね」と屈託なく笑う。そんな敦夫さんをともに牧場で一日を過ごしてみた。

無為 今の状態で出来ることを、
一生懸命やる。

夏草スーダングラスの生い茂る広大な草原を、1人で刈り取る。腰を痛めて一時は引退したと述懐しながら、敦夫さんは「牛はたくさん食うからなぁ・・・」と目を細める。
晴天下の輿石牧場はどこまでも広く、蒼々とした照り返しが眩しい。

作付けもあれば雑草の処理もあって、収穫は天気に左右されるし、牧草を育てるのも一苦労ですね。父も亡くなってワンマンで仕事しなければならないので、必然的にこうなっちゃったんだけど。

それでも、野辺山開拓農協で研修に行った野辺山の高原は果てしなく広く、小規模牧場とのギャップを乗り越えるのに必死だったと、敦夫さんは語る。

理想と現実っていうのがあるので・・・餌を作る畑も、野辺山あたりとここいらとでは全然違うし、出来る範囲でとりあえずやるしかないなと開き直りました。規模拡大もしたいっていうのもあったんですけど、人を雇ってその人を使うっていうこと自体が、俺には向いてないので。今の状態で出来ることを一生懸命やってみて、どうなるかってことぐらいでしたね。

適正 健康でいてくれれば、
それだけでいい。

マイペースに牛の世話をしているように見えて、敦夫さんの牛への気配りは細やかだ。敦夫さんは、野辺山開拓農協では人工授精師として働いた。一頭一頭の乳牛の乳質検査やサンプリングに携わり、乳質改善を指導してきた経験が活かされている。

一番気をつけているのは、乳房炎っていう病気だよね。そこら辺をどうコントロールしていくか。うちの牧舎もいつも牛床を綺麗にしとかなければいけないなと、気を使いますね。

自分一人で出来る適正規模の中で、自分の目で乳牛の健康状態・衛生環境を確認し、今出来ることから改善していく。等身大の酪農は無駄やムラがなく、そしてどこまでも乳牛たちに優しい。

人間も多分そうだし、牛もそうだと思うんだけど、あまり無理をしてもね、どっかでシワ寄せがいくるんで。まぁ、ほどほどにというのはおかしいんだけど、余分に働かなくてもいいから、とりあえず健康でいてくれみたいな感じで、牛は飼うようにはしていますね。

結実 その甘さは、
牛に無理をさせてない証拠。

協同乳業は、長野県佐久市に診療所を設置し、社員獣医師の診療活動を通して酪農家をフォローしている。

協同乳業の獣医師さんには本当によくしてもらっているのですよ、実際。牛は生き物なので、困ったときは、こっちも電話をかけざるを得ないわけですよ。その時に、2つ返事で来てもらえる。
治療やお産に関しての技術も秀でた人がやっていて、それを会社の中でしっかり継承しているので、安心して診療を頼めるっていうのが、やっぱり1番のメリットかなと思います。

輿石牧場の生乳は、農協ヨーグルトの原料として使われている。そのことに触れると、敦夫さんは嬉しそうに顔をほころばせる。

自分の生乳が商品になっているのは嬉しい。消費者が見て、ああこの人が生産してるものがこの中に入ってるんだって思ってもらえるってことは、1番嬉しいことだと思います。 この前も、知り合いが友達のお菓子屋さんを連れてきた時に「まぁ寄って、牛乳飲めや」ってやると、「甘い香りがして、美味しい」って言ってくれてね。
農協ヨーグルトの原料に使ってもらっていることは、自分がやっていることを認められたみたいで、うれしかったですね。

共生 牛も人間も、
食べた以上は働けないよな。

敦夫さんの酪農には、野辺山農協時代に研修で訪れたニュージーランドの放牧への微かな憧憬のようなものが伺える。

日本やアメリカは穀物をいっぱい与えて、たくさん生乳を搾ろうという考えが多いけど、自分が研修に行った当時のニュージーランドはもう放牧主体で穀物は一切与えないんだ。人間と食物を共生して取り合わないということを基本概念に置いている。牛の体も小さめで、育成も自然にまかせています。だけど、健康じゃないわけじゃない。牛は本当に好きに食べて動いて、体が締まっているんです。

もちろん、日本の酪農とはあまりにも規模が違うんだけど、牛舎で飼おうが放牧で飼おうが、牛は食べた以上には働けないよな。ま、人間もそうだと思うけど。
そういう分を超してやれば、病気にもなるだろうし、いろんな弊害が多分生まれるんだろうなっていうのは、思いましたね。

分を超えず、無理をせず、今あるがままに牛と生きる。「酪農家と乳牛との共生を楽しんでいますね」と問いかけると、敦夫さんの表情が嬉しそうに綻んだような気がした。

酪農家Profile  輿石牧場

所在地
長野県佐久市東立科
牧場の規模
経産牛 23頭/全頭 30頭
生乳が使用される
協同乳業の商品
農協ヨーグルト
一言メッセージ
まぁ、ほどほどが一番なんで。うちの生乳、飲みに来てください