長野県安曇野 太田農場
信州安曇野牛乳の生乳を生産

牛に寄り添い、
労を愉しむ

冷涼な気候の信州でつくられる信州安曇野牛乳。
その限定酪農家の1人として、家族経営ながら手間のかかるフリーストール型の牛舎でのびのびと乳牛を育てる太田亨さんにお話を伺いました。

長野県安曇野は、標高600mの盆地に広がる田園地帯。北アルプスから吹く涼風は緑を繁らせ、豊富な湧き水が生けるものの喉を潤す。昔から多くの酪農家たちが集うこの地に、祖父の代から続く太田農場は松本市梓川から居を移した。

牛をつながないフリーストール型の牛舎で、経産牛35頭・全頭50頭の乳牛を4人家族で育てる太田亨さんの牧場を訪れた。

奔放 手間がかかるけれど、
本当に面白いな。

牛舎の中では、牛たちが自由に戯れる。仕切られた囲いの中で寝そべる牛もいれば、牧草に無心に食らいつく牛もいる。

この牛舎は日本で初めて国内メーカーが試験的に作ったフリーストールなので、今の構造からは考えられないような作りになっているんですよ。普通は床にマットを敷いて牛が滑らないようにするのですが、ここはコンクリート打ちっ放しなので、籾殻をふんだんに利用してスリップを抑制しています。窓も低いので、牛が窓に届いてしまう。牛はもう何でもありで、ネットを張ろうがカーテン閉めようが、届いたと同時にみんな引っ張っていくんですよ。

寝床は、つなぎ牛舎のように柵で仕切る。不思議なことに寝る場所を決めているわけでもないのに、牛は同じ仕切りの中で寝そべるという。奔放な牛たちにさんざん手を焼かされながら、太田さんはなぜかとても楽しそうだ。

毎日顔を合わせていると、牛は喧嘩したりどつかれたり、生き物なんで弱肉強食は当たり前なんですが、なんか楽しそうだね、自由でいいよねって思いますよね。なるべく揉めさせないようにするには手間がかかりますが、まぁ本当に面白いなってのはありますよね。

協働 米農家と営む水田酪農

米どころでもある安曇野では、米づくりに牛の堆肥を活かし、その副産物を酪農のために活用する「耕畜連携」が進む。太田農場でも、粗飼料として稲WCS(ホールクロップサイレージ)を活用し、近隣の耕種農家と農作業を協働している。

本当は、毎年種籾を撒く稲WCSよりも永年草の牧草のほうが楽なんだけど、米農家さんも楽ができるので、お互い様でやっています。安曇野の酪農は、「水田酪農」と呼ばれるくらい、米農家さんと縁が深いんですよ。

北アルプスの清涼な湧き水とその栄養をたっぷりと含んだ牧草を食べ、フリーストールの牛舎で自由に過ごす。太田農場の牛たちは、とても人懐っこく、穏やかな表情をしている。

今は大規模化する牧場も多いけれど、信州は昔っから小規模酪農家が集まって仲良くやっているので。やっぱり日本は国土が狭いので日本の酪農は家族経営が多いんですよ。
うちはかみさんと小学生の女の子2人ですけど、365日もう必ず仕事は手伝わせています。うちの牛が人懐っこいのも、いつも同じ家族が同じように触れているので細かく目が届きやすく、1頭1頭を大切にすることにつながっているのかなと思いますね。

至高 ひとつの輪があるのが、
心強いですね。

太田農場は、信州安曇野牛乳の限定酪農家に指定されている。信州安曇野牛乳のホームページには、青年時代の太田さんの声が紹介されている。

信州安曇野牛乳ができる前は、搾った後のことをあまり意識しなかった一生産者に過ぎなかったので、限定酪農家として紹介された時はちょっと気恥ずかしいような気持ちがありました。今でも多くの人たちに飲まれ続けていると聞くと、「認められているんだな」という誇らしい気になりますね。

50種類のご当地牛乳が並ぶ「秋葉原駅ミルクスタンド」で7年連続して販売1位を記録するなど、信州安曇野牛乳は確かな地位を築いている。その強さの秘密を、限定酪農家に聞いてみた。

協同乳業には昔から酪農家に積極的に関わるという姿勢があって、社員の獣医さんたちも一緒にやってくれてるし、農協さんもそうだし、そういうバックアップ体制というか1つの輪みたいなものがあるところが、心強いですよね。

団結 今こそ、みんなが大きな
塊にならないとね。

太田農場の牛舎には古びた木製の表札が掲げられている。その書は、協同乳業創業者・吉田正の筆によるもの。

太田さんは現在、あづみヘルパー利用組合の組合長として、松本の利用組合との合併の話を進めている。全国規模で酪農家が減少する中で、酪農家たちは離農者が巡回して繁忙期の作業を手伝う酪農ヘルパー制度を設けた。

安曇野のヘルパーは1人なんですけど、松本の組合と合併すれば、互いに2人のヘルパーを利用できるようになります。この酪農情勢の中で、同じ品質の維持・量の確保がこの先どこまで続けられるのか課題ですが、信州の酪農家同士で協力し合おうということです。

酪農家の想いなどと言いますが、我々生産者はもちろん、組合にしても、メーカーにしても、とにかく全員が同じ方向を向いて声をあげないと、届かなくなっている。当然、消費者の方々も巻き込んで、ひとつの大きな塊として今できることをやっていかないと、酪農が生き残れる道が閉ざされてしまうのではないか。そうはさせないぞ、と頑張っているわけです。

奔放な牛たちに世話を焼かされながら、暇をみつけては松本へと足を運ぶ。人一倍の労力をかけながら、太田さんはそれを愉しんでいるかのようだ。

酪農家Profile  太田農場

所在地
長野県安曇野市
牧場の規模
経産牛 35頭/全頭 50頭
生乳が使用される
協同乳業の商品
信州安曇野牛乳
一言メッセージ
とにかく、みんなが同じ方向を向いて、声をあげないとね