東京都西多摩 ウエストランドファーム清水牧場
東京牛乳の生乳を生産

東京都多摩地域発・
魅せる酪農

日本の首都東京で、最先端のロボット式搾乳システムを導入し、おしゃれなジェラートショップで消費者との交流を深めるウエストランドファーム清水牧場・清水陸央さんのお話を伺いました。

東京都西多摩郡に、まるで工場のような巨大な牛舎が建っている。終戦直後、食糧難の東京都民に牛乳を配るため、祖父が西多摩に「清水牧場」を拓き、その生業を父、自分と受け継いできた。自分から息子たちが加わる頃には、仕事のスタンスも大きく変わった。

経産牛80頭・全頭120頭の大規模な牧場を、首都郊外の住宅地で運営する。遠隔制御のロボット式搾乳システムをいち早く取り入れ、常時得られる新鮮な生乳でおしゃれなジェラートショップを展開する。清潔な牛舎には同業者以外の見学者も多数訪れ、子牛の戯れる姿が近隣住民の心を癒す。憩いの場にふさわしく牧場の名に「ウエストランドファーム」の愛称を添えた。名プロデューサー清水陸央さんが仕掛ける未来の牧場を訪ねてみた。

配慮 周りが住宅街だから、
気を使わなきゃね。

清水牧場を訪れると、かわいらしい乳牛のオブジェに迎えられる。広々したフリーストール型の牛舎には牛たちが自由に戯れ、舎内は清潔で明るい雰囲気に満ちている。従来のイメージを一新させるような牛舎を建てた理由を、清水さんは「東京で牛を飼うには、周りが住宅街だってことに気を使わなきゃいけないんですよ。」と語る。

特に私が家業を継いだ頃は畜産公害と言われた時期で、東京都も匂いとか糞尿処理とかの環境衛生面には厳しく、人が見えないところも徹底して管理するように言われました。それを意識して取り組んだことで、このような牛舎になりました。

東京都酪農業協同組合では東京都と一体となって、限られた資源や廃棄物を有効に活用し、近隣住民と共存できる酪農環境づくりを進めている。清水さんも近隣農家から耕作地を借り、牛舎から出る堆肥を肥料にして飼料用のトウモロコシを栽培しているという。

牧草はさすがに土地が広くないと賄えないので、組合では千葉から稲ホールクロップサイレージや山形県からデントコーンサイレージ、北海道からは牧草ロールを共同購入し、うちの牧場は中継ぎの配布場所になっています。ご覧の通り、ここいらで一番大きいのでね。

新鮮 牛が搾ってもらいたい時に、
乳を搾る。

ウエストランドファームに多くの見学者が訪れるもう1つの理由が、搾乳作業を完全自動化したロボット搾乳システムだ。乳牛たちはおっぱいが張ってくると、牛舎の手前にある搾乳ロボットへと向かう。乳を搾るためのライナーは自動的に乳頭に装着され、搾乳してタンクへと送る。ライナーのセンサーと首輪につけられたICチップから収集されるデータで牛の健康状態をチェックし、その情報はスマートフォンにも送られる。

標準偏差的なデータを記憶しているから、ロボットは何度も入ってくるような牛には搾乳してやらんのですよ。ICチップからは牛の歩数から健康状態や餌をどれぐらい食べるかまでわかるから、頭数が多くてもキメ細かく管理できるわけです。
健康管理が行き届くから、乳質も自然と向上する。さらにロボットは牛が搾ってもらいたいというタイミングで生乳を搾るから、いつもでも搾りたての牛乳を手に入れることができるわけです。

交歓 地域と馴染み、
よろこばれる。

ウエストランドファームの生乳は、『多摩酪農家発 東京牛乳』に使用されている。多摩地域の牛乳には、1964年の東京オリンピックの際に選手村公認牛乳に選ばれた歴史がある。

東京牛乳は、白地に商品名のパッケージが、インパクトがあって良かったね。おかげで、東京にも牛を飼っているところがあるんだなと認知してもらえます。
東京でも、酪農家はしっかり働いていますよ。多摩地域の酪農家は昔から、足がしっかりして、おっぱいの形もしっかりしている乳牛を育ててきたんです。

2019年からは、新鮮な生乳と地産の食材を活かしたジェラートショップをオープンしている。洋館仕立ての店構えと新感覚のおいしさに、多くのファンが魅了されている。

息子の嫁さんが何か新しいことをやってみたいってことで、始めたんですけどね。うちの搾りたてのミルクと多摩産のキウイフルーツやトマトなどの地元の食材を使っているのだけど、なかなか評判も良く、牧場を6次産業化するのもいいもんだなと。でも、その源には、ロボットで1日3回も4回も搾る、とびきり新鮮なうちの生乳があるわけです。

基調 東京の酪農家は、
魅せなきゃね。

近郊酪農として、昔から酪農家と地域住民が融和していた多摩地域でも、新しい世代の流入が加速する。

牛の匂いは確かにあるけれど、見た目を綺麗にしていることで、お客様に受け入れられています。ああ懐かしい匂いだなとか、北海道に行ったみたいだなって感じになって、逆にいいんです。 やっぱり東京の酪農家は、こうやって魅せなきゃね。これからはね、牛乳を売るには消費者を魅せられる牧場になっていくべきだと思っているんです。

デジタルシステムを積極的に取り入れ、新しい取り組みに挑戦し続けてきた清水さんの目には、どんな酪農の未来が描かれているのだろうか。

子供たちは、高い餌代をかけて苦しい経営をするよりも、お店のほうをもっと手広くやった方が良いと提案するが、私は、そうは考えない。やはり、酪農の基本は、おいしい牛乳をつくることだ。鮮度の高い生乳をたっぷり搾って、酪農をしっかりやった上で、それをお店に反映させていく。それが、「魅せる酪農」ってことだと思うんだ。

そのスタイルは時代とともに変われども、おいしい牛乳を届けたいという酪農家としての想いはいつまでも変わらない。

酪農家Profile  ウエストランドファーム清水牧場

所在地
東京都西多摩郡瑞穂町
牧場の規模
経産牛 80頭/全頭 120頭
生乳が使用される
協同乳業の商品
東京牛乳
一言メッセージ
一番うまいのは、搾りたてのバルクに残った新鮮な生乳です